市場調査会社によるアンケートで「自分自身は人にものごとを伝えることに自信がある」と答えたのは16%、「とても苦手・少し苦手」が84%と否定的に捉えている人が圧倒的多数になりました。それほど、人間にとって「伝える」ことは難しいものと考えられているようです。
しかし、その伝えるという行為には料理や研究などと同じで、底辺に共通のスキル、レシピが存在します。そのスキルを身に付けるために伝える技術の「基礎編」2回目をお届けします。気軽にお読みください。
こちらの意図を相手にきちんと伝えるためにはなるだけ「絵」「画像」に変換して語り掛ける、そしてまた相手の「メリット」「利益」を意識することが大事と前回述べました。
ただ、そのメリットは裏から見ると「避けられる損失」とも密接につながっています。実は、人間には
という特性があります。
昔、勤めていた職場である先輩にお金を貸してくれと頼まれ、用立てたことがあります。(額は10,000円と小さかったですが・・・)
でも、先輩は結局そのお金を返してはくれませんでした。そしていつの間にか退社してうやむやに。もう、40年以上も前の話ですが、私はしっかり覚えています。40年前ですよ。
一方、5年ほど前でしょうか。経営者仲間が店舗を移転するとのことで、仲間で生花のプレゼントをしようということになり、皆で分担することになりました。しかし、それが電話でのやり取りだったため、私はすっかりそのことを忘れてしまい負担金を払わずじまいで、数年後その幹事役からの指摘で思い出したのです。
お金を立て替えてもらった恩義はとっくに忘れ、貸したお金のことはたとえ小さい金額でもいつまでも忘れない…。まさに自分の痛みには敏感なのです。人間、肉体を抱えているだけに「痛い目に遭いたくない」という気持ちが勝るのでしょう。
先ほど行われた大阪市の大阪都構想。前回に引き続き否決となってしまいましたが、その要因として新聞社から直前にもたらされた情報が影響したのでは?と言われています。
大阪市を四つの自治体に分割すると行政コストが現状より年間218億円増加する
というものです。真偽のほどはともかく、市民が痛みに敏感に反応したのです。また、このネガティブな情報が出たのが投票日直前という絶好のタイミングでした。
都構想から得られるメリットは事前におおさか維新の会は声高に叫んでいました。でも、そのメリットはなかなか自分事に結び付けられなかったのではないでしょうか?つまり
そんな印象を持たれたのだと思います。
これを逆転するにはよほどインパクトのあるメリットを提示する、あるいは都構想を推進しないともっと大きな痛みが来ることを明示する戦略もあったのではないでしょうか。皆さんはどうお考えになりますか?
さて、こうした「痛み」に根差した表現の使い方、どのような表現法があるのでしょうか。例を挙げます。
銭湯で、「水不足の季節です。お風呂でのシャワー出しっ放しはやめましょう」より
「水不足の時期にあなたが困らないために節水に努めましょう」
の方が自分事に感じられます。また、柿泥棒で困っている人、「柿泥棒を見つけたら警察に連絡します」より
「渋柿です」
という感じですね。
また、お笑い(ユーモア)もこうした場合に有効です。こんな事例がありました。
「この付近で犬のフンをさせるな!」→「この付近で犬のフン固くお断り、やわらかいフンもお断り」
いかがでしょうか?ちょっと表現を変えるだけでずいぶんと気持ちが変わってきませんか?言葉にはそれだけ力があるのです。
適切な言葉を適切なタイミングで、しかも痛みを回避するという視点で使ってみてください。
「良い答えを得たいなら良い質問を」
とよく言われます。人間は質問されたら考える習性を持っています。実はその質問いかんで結果がまるっきり異なってくるのです。こちらの期待した答えを得たいなら
イエスかノーではなく、どちらかを選んでもらう質問法
を取りましょう。例えばレストランで、食後のデザートを勧めるとします。
「食後のデザートはいかがですか?」
とやれば
「う~ん、いる?いらない?やっぱりいらないや」
でも、これが
「デザートは●●製ジュースと果汁タップリ●●アイスクリームの2種類あるのですが、どちらかいかがでしょうか?」
「えっと、えっと、どうしよう。君はどっちがいい?」
という流れになる可能性大です。選択肢を二つ用意するのです。この二つがポイントです。選択肢が三つも四つもあると今度はこんがらがってしまいます。二つが実に分かりやすいのです。以前触れた「VS方式(比較対象)」と同じですね。
客単価をアップさせる方法としてデザートは原価を抑えられるだけに、たったのひと言で変えられるなら使わない手はありません。
また、二つ用意することには強力なメリットがあります。一つだけだったら押し付けられた感がお客の側に残る可能性があるのですが、二つだったらお客様自身が自分の意思で選んだから、例え失敗しても許してくれる可能性が高いのです。(笑)
次は、自尊心をくすぐる方法ですね。私は常にそのことを意識してメンバーと接しています。私は決しておべっかは言わない、を鉄則としていますが、常に相手の良いところ、特徴を探すことに集中していると必ず見つかります。
これを意識しながら人に接しています。頼みごとをする際に聞いてもらえる確率が高まります。私はよく企画書を書いてもらう際、スタッフに
君の分析は的確なのよね~ いつもスムーズに事が運ぶから助かってる。今回も頼めるかな?
と。こう言われて悪い気はしませんね。これは家事についても言えます。妻に
「朝ごはん まだぁ」
より
「君の料理は手際がいいから朝支度がスムーズにいくんだ。よろしく頼むよ」
の方が妻も作り甲斐があるというもの。これは認めてもらえているという感覚になりますね。
人間には5大欲求というのがあります。
①生きていくために必要な基本的・本能的な欲求
②安心・安全な暮らしへの欲求
③友人や家庭、会社から受け入れられたい、帰属していたい欲求
④他者から尊敬されたい、認められたいと願う承認の欲求
⑤自分の人生観に基づいて、「あるべき自分」になりたいと願う自己実現の欲求
この5つです。この承認の欲求を満たしてあげると相手はあなたに協力したいという思いが強くなり、あなたの言葉に耳を傾けてくれるようになります。
以上、前回と今回の2回にわたって伝わる表現の基本編について述べてきました。いかがでしたか?次回はそのテクニックをもう少し掘り下げてお話しします。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
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