日本ハムファイターズの新監督に、あの新庄剛志氏が就任しました。私自身アッと驚くサプライズ人事。だって引退後、野球界にほとんど関わらず、かつ外国暮らしが長くすっかりタレントになっていたのでは?と思っていたぐらいです。
写真はファイターズ公式YouTubeチャンネルからお借りしています。
https://www.youtube.com/user/FIGHTERSofficial/featured
野球に興味のない方は新庄剛志が何者かさっぱりお分かりにならないと思いますが、世の多くの男性はその名前ぐらいはご存知かと思います。そこで、今回は新庄監督の記者会見を広告表現の分野からのぞき見してみたいと思います。
目立つ格好や言動に対して
「あいつはパフォーマンスばっかりだ」
と糾弾する事例が多いですが、これは表面、一部だけを見ていることが多いものです。やはり、全体そして裏側からキチンと見る必要があります。見た目の印象だけで判断すると間違いの元です。(メディアの情報を鵜呑みすることと同じ。情報を選別する確かな眼が必要です。)
さて、その新庄監督、サングラス、襟立のド派手なスーツで登場したかと思えば「私が日本の野球を変える」「ビッグボスと呼んでほしい」「優勝なんか一切目指しません」などと“新庄節”を炸裂させました。
阪神、日ハムの現役時代から、破天荒、型破りなことをやってきただけに、「彼ならそれぐらい当たり前」とは思いましたが、予想以上でした。彼の会見の模様が様々な番組で取り上げられ、メディアを席巻、その余波はまだ続いています。
経済評論家の言によれば、会社はもう十分元を取ったのではないか、というほどです。ここに表現の分野で学ぶ点があります。再三お伝えしているように、マーケティングの視点から
のです。注目させてから中身、真の姿に興味を持ってもらう。この順番が大切です。まずはガツンとインパクトを与えることこそが広告の第一歩なのです。
では、この目立つ行為だけで物事はうまく行くか…となるとそう簡単ではありません。目立つ言動をした以上、何らかの成果(成績、観客動員、ファン拡大)が求められます。当の球団社長も、「チームを勝たせること」を第一とし、その上で「ファンサービスの実践を、その順番は間違えないでいただきたい」と、クギを刺していました。
さらに、ファイターズの親会社である日本ハムのブランド力アップにも貢献しなければなりません。
これがないと、急速に信頼を失い「それみたことか!」そっぽを向かれてしまいます。この点、彼は見た目と違ってなかなか抜け目のない人に見えます。突拍子もない発言の裏で関係者に対する配慮、野球に対する情熱が論理的に語られているのです。
「人間性というものは大事であって人の悪口は言わない。『いただきます』『ありがとうございました』の言える選手は育てていきたい。僕はチャランポランにしていますけど、そういう上下関係は阪神時代から、あるいは小さいときから親の教育でしっかりしたものを持っていたので、選手にはそのことを伝えていきたい」
こんな発言をしていました。そこには「人として成長なくして技術的成長なし」が口癖だった阪神時代の恩師、野村克也監督の姿とダブります。
ド派手な衣装の反対で、論理的な、人間臭いことを語る。このギャップが人の魅力につながります。これは広告の世界でも同じ。インパクトを与えた後でキチンとした裏付けの内容やデータを提示する。この流れを無視しては人の気持ちを惹きつけることはできません。
のです。記事にしてくれるのです。記者の心をわしづかみにするのです。
次に彼が強調していたのが、「メンタルの強さ」でした。プロ野球に入ってくる選手の技術的レベルは大差がなく、メンタル的な問題で力を伸ばせないケースが多い。そこを強調していました。そのメンタル的なものに関してはものすごく引き出す力があるとも語っています。
具体的に、「チームにピッチャー3人、野手4人のタレントを作り上げていけば素晴らしいチームになるし、タレントが生まれるとなれば全国に顔も背番号も名前も覚えてもらえる。そのときにはチームは強くなっている」とも言いました。
さらに、『選手全員を年に1回は一軍のグラウンドに立たせる』と言ったのです。これは選手にとっては絶対にチャンスはもらえるということ。ですから、練習にも身が入るでしょう。つまり、ここには「野球を楽しくする」というバックボーンが流れているんですね。
以前のスポーツ界と言えば、「根性、根性、そしてまた根性」といった精神論が主流となっていたように思います。しかし、最近では科学的、論理的な部分がずいぶんと取り入れられるようになってきました。
人間楽しければ、頑張れるのです。長続きするのです。スポーツとは離れますが、人間お腹が空いていても漫画がおもしろければ我を忘れて夢中になっていた経験が皆さんにもおありでしょう。
彼はここを狙っているのだと思います。苦しい練習、厳しい練習に面白さを感じるような何かを加えることで工夫が生まれてきます。もっと注目されたい、褒められたい気持ちが向上心を産む。きっとここを狙っているのですね。
あるOBが「見た目は派手でパフォーマンスが目立つけど、大胆かつ緻密さをもった選手だった」と語っていました。私たちの世代でもっとも記憶に残っているのは巨人戦で、敬遠球を打ってサヨナラ勝利したことです。
これはただ単に、敬遠球を打ったわけではなく、本人がしっかりと研究、準備した結果だったのだそうです。やはり、両面性が人の魅力につながるのですね。
さて、これまで新庄監督の会見をひも解いてきましたが、優勝できるかどうかはプロの視点を持ち合わせていない私にはわかりません。しかし、確実にプロ野球を楽しむことができます。期待しましょう。