会議、朝礼、経営者会合、地域での集会など様々な場面で人のスピーチを聞く機会があります。経営者・幹部層になればなるほどそれは増えていきます。もちろん聞くだけではなくて話す側に回ることも多くなるのですが…
しかし、この人の話を聞くという行為。かなり辛抱を必要としますね。人の心を温かくする話題ならいいのですが、ただ延々と聞きたくもない話を聞かされるのは一種の
とも言えます。「見る」なら目を閉じることで逃れられますが、「聞く」はそうはいかない。まさか両手で覆うわけにも行きませんし…。だからこそ話し手として、相手に楽しく親しみやすく聞いてもらうための努力が求められています。
前回は、話し方の順序「起承転結」の大切さとその組み立て方について書きましたが、今回はその中の要素のひとつ
について書きます。お付き合いください。
このコラムでたびたびお伝えしていますが、マーケティング用語にAIDMAというのがあります。人が何かの行動を起こす場合の定説です。Attention(注目)→Interest(興味・関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)の頭文字をとっています。
例えば、洋服を買うとします。皆さんは街頭のディスプレイを見た瞬間に即行で買っていた!という経験がありますか?高額な商品になればなるほど、自分がはまっている嗜好品であればあるほどそうした経験は少ないでしょう。
つまり、注目させ、興味を持ってもらい、それがいつしか欲しいに変わり、記憶の中にしっかり残ってやがて購入へと至る。そうした“間”というものが存在します。
もっとも最近ではDesire(欲求)の後に、Experience(体験),Enthusiasm(熱中),Sharing(共有)が加わったAIDEES(アイデス)モデルが主流となりつつあります。SNS全盛時代ならではですね。ただ、そうだとしても最初の入りは
にあります。まず気づいてもらう、目にしてもらう、手に取ってもらう、聞いてもらうという行為が出発点になるわけです。ここを失敗すると挽回するのはなかなか難しいです。
そうした観点から見てみると、お笑いの世界はほぼこのセオリーを踏んでいますね。登場した瞬間
「一発かます!」
ということをやっています。ここでしっかりつかんでおくわけですね。
広告の世界で強調されることは「見出し・タイトル」です。いわゆる“つかみ”ですね。
ここからすべては始まります。ここで読み手の関心を惹かなければなりません。だからこそ芸人は冒頭の10秒で観客を惹き付けることに汗をかいているわけです。
私の好きな芸人「ミルクボーイ」が登場シーンで架空のプレゼントを受け取るシーンがありますね。その都度違うネタで勝負しているのですが、この定番の入り方に観客は「次はどんなネタを出してくるのだろう」と興味津々です。ここでしっかり惹き付けておいて、あの漫才につながっています。
なお、彼らはしゃべりのプロですから例えそこでスベっても挽回は利きますが、われわれ素人はそういきません。だからこそ、話の順番も大事なのです。
私は所属する会の案内一覧で「タイトル」と「リード文(見出し)」に着目して、出席しようと考えています。そもそも真面目過ぎるタイトルではもう既に「きっとつまらないだろうな…」という心理が働いています。それほど、タイトルは重要なのです。
では、どうやったら“つかみ”は成功するのでしょうか?
もっとも有効な手法が、聞き手の頭の中に「?」を抱かせることです。もう少しかみ砕くならば「常識の逆を行く」表現です。人は
「これはこういうものだ」
という常識、先入観を持っています。例えば、
「プロレスラーは強い」
「警察官は真面目である」
「病院の先生は健康に気を使っている」
などです。でも、気の弱いプロレスラーがいるかもしれません。それは、身体の弱さではなく、家庭内では圧倒的に妻が主導権を握っているとか…ですね。つまり、
これを取り入れるだけで聞き手を注目させることが可能となります。
私の事例を紹介しましょう。私はよく冒頭でこんな自己紹介をします。
「これまで皆さんにひた隠しにしていたことを、今日勇気を出して初めて告白します。実は私は“前科三犯”なのです。」
と。大切なことは深刻そうな顔をして語ることですが、何をやったのだろうと皆さんがちょっと前のめりになります。そこで、すかさず
「妻に夫らしいことをしてあげられなかった罪」
「子どもの長所を見出してあげられなかった罪」
「社員に満足する給料を払えなかった罪」
の3つです。とやります。すると皆さんの顔がほころぶのがわかります。これから入ることで、この人なにか面白い話をするんだろうな、ということを感じられるのです。これで大体は聞く姿勢が整います。
大抵の方は、私の風貌からして罪を犯しそうな人間には見えないという“常識”が存在しています。そうしたことのウラをいく表現が人を振り向かせるわけですね。ある意味非常識な表現です。
世の中にはこうした非常識な表現が満ち溢れています。
◎家はまだ建てるな(すぐ家を作って欲しいはずの工務店)
◎不器用な理容室夫婦(腕は確かだけど寡黙)
◎英語を教えない英語教室(英語の前に正しい日本語を教える)
といった具合です。AIDMAでいうところのAttention(注目)があってこそ、です。これがなければ期待感も湧かないのです。
もちろん、冒頭のつかみだけが良くて後は「グチャグチャ」ではいけませんが、そこは前回ご紹介した三段話法を活用して話していただければ大丈夫です。三段話法とは、つかみの後
という流れでしたね。皆さんもこれからこのことを意識して会話に臨んでみてください。
今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。