今回のコラムは、先頃行われた青森県知事選挙が題材です。今回当選した宮下宗一郎氏(44歳)をYouTubeで偶然見かけてから「何だか面白そうな人だな」と感じ、「追っかけ」していました(笑)
そこで今回の勝因をマーケティングの視点で3つに絞ってみました。最後までお読みくだされば幸いです。その、3つの要素とは
ひとつずつ見ていきましょう。
今回の知事選では4人の候補がいましたが、実質は前むつ市長の宮下氏と前青森市長小野寺晃彦氏との一騎打ちでした。その結果、宮下氏の40万票に対して、小野寺氏は17万5千票と倍以上の大差で宮下氏が勝ちました。
私は今回の事例は今後の選挙のあり方にもの凄いインパクトを与えたと思っています。選挙戦序盤では小野寺氏の方が前知事や自民党の主だったメンバーが支援していたこともあり有利だと言われていたにもかかわらず圧勝です。その根幹にあったのが宮下氏の
という戦略でした。つまり、企業や業界団体頼みではなく、「県民・市民一人ひとりに寄り添う」戦略です。具体的なやり方については後ほど述べますが、SNSによる発信力も相まって街頭演説における聴衆の数がどんどん増えていくのが手に取るようにわかりました。
このような現象を以前見たことがあります。それは宮崎県の東国原氏が知事選に初当選した時の光景です。あの時も泡沫候補と見られていながら、最後は大逆転で当選を果たしました。
しかし、今回の状況は若干異なります。政治手腕は未知数だったけど知名度は抜群だった東国原氏。一方、今回の宮下氏は地元むつ市を含む下北地区では人気があったものの他の地域ではさほど知られていなかったのです。
普通ならむつ市の6倍近くの人口を抱える県都の市長の方が有利なように見えます。しかし、周辺の地域をある程度まとめると県都青森市に匹敵するほどのパワーになるということです。(圧倒的人口比率を誇る鹿児島市とは多少条件が異なるかもしれませんが…)
次に私が注目したのが色分け(色仕掛け)作戦です。色分けとは、
ということです。比較検討しやすい「軸」、それが宮下氏の場合
というものでした。もちろん相手の小野寺氏も若い人ではあったのですが、バックについている人が前から政界の中枢にいた人、という印象がありました。そこで宮下氏は
を声高に訴えていきました。もう一つの要素がむつ市を含む下北地域の首長の支持を取り付けました。下北地域は本土最北端で、地理的ハンディがあると言われ若干インフラの整備が遅れ気味という指摘もありました。
青森県は昔から3つの地域の分断によって縄張り意識が強いという特性がありました。これをうまく利用したと思います。
ハンディが大きいと言われた下北地域をまずまとめて、次の地域へ波及させる作戦だったように思います。これが功を奏したのもむつ市における圧倒的な実績です。
新型コロナ対策では、全国のトップを走る政策を実行しましたし、さらに少子化対策や市民の声を聞く仕組みなどもかなり洗練されたものがありました。
話を戻します。対立軸については、あえて企業・団体の推薦を求めず徹底して県民の声を聞く姿勢を取りました。大きなホールに無理やり集められた人たちの前で応援弁士や候補者が一段高い壇上から話すというスタイルは取らなかったのです。
すべて平場の公園などで本人を聴衆が囲むという対話集会をメインにしたのです。しかも、聴衆からの質問に即興で答えるスタイルで!このやり取りを見ていて即答する宮下氏の勉強ぶりに感心したものです。これは、すべての物事を深く考えている習慣のなせる技だと感じました。
これこそ
です。口では何とでもいえます。しかし、それは有名無実になっていることが大半です。私はこの実践力にいたく感激しました。これが宮下氏の色分け作戦です。
さらに、こうしたことが全県的に広まっていった原動力に「SNS」が挙げられます。この威力には凄まじいものがあると今回改めて痛感しました。
宮下氏が掲げたキャッチフレーズも実に分かりやすかったです。
一方、小野寺氏が掲げたのは
です。このキャッチフレーズ、どちらにワクワク感があるかわかりますね。宮下氏の対話集会では最後に「青森! 新時代!」を全員で掛け声するのです。まさに、一体感を生み出す手法です。「実行力」では、多くの人が使っていそうでインパクトが生まれません。
さらに、特筆すべきは
という戦法です。候補者自身はおろかスタッフもすべてお揃いのブルーのパーカーやTシャツ。しかも胸にはでかでかと「青森新時代」のキャッチフレーズ。つまり、口コミに乗りやすいキャッチフレーズとカラー戦略をものの見事に駆使していましたね。
参考までに両者のFacebookの画像を載せておきます。一目瞭然、宮下氏のカラーが際立っていると思います。
【宮下氏 Facebookの画像】
【小野寺氏 Facebookの画像】
現代のネット社会、SNS主流の社会は宮下氏のいう通り選挙のあり方を変えつつあります。これまでなかなか投票に行かなった若者世代がネットを活用した手法で選挙に興味を持ち始め、投票率が上がるかもしれません。
それもこれも政党や候補者自身のあり方を変えることによってもたらされるものです。第一、投票率が半数にも満たない現状は好ましくありません。その試金石に今回の青森知事選挙はなるのかもしれません。
ちなみに、噂話ですが青森県の衣料品販売コーナーからブルー系のものが品切れになったという話もあります。たかが一つの選挙でこのようなムーブメントが起こせる。何とも素晴らしい時代になったものだと思いました。
ここでもう少し、宮下氏のSNS戦略について考察してみます。宮下氏はむつ市長就任当初から「SNS」に並々ならぬ情熱を注いでいました。むつ市のYouTube公式チャンネル「むつ市長の62ちゃんねる」は登録者1万8千人に上ります。
1万8千人ですよ。人口5万人あまりの街なのに…。比して人口60万人近くの鹿児島市のYouTube公式チャンネルの登録者数が2,460人
何の変哲もない記者会見を、ビジュアルを駆使して発信する、あるいは職員とタッグを組みお笑い風のドラマ仕立てにするなどその発信力は秀でていました。
面白かったのはふるさと納税の返礼品に「ホタテ水着」が候補に挙がったときのやり取りを宮下氏と職員が面白おかしく掛け合いしていました。実はこれが全国ニュースで取り上げられたのです。
これがまさに
当たり前のことを当たり前に流しただけでは誰の注目も浴びません。少々の批判覚悟で思い切ったことをやる…。こういうセンスが今の時代求められています。なぜならSNSで一気に広がるから・・・
選挙戦においても小野寺氏のYouTubeフォロワー数730人に対して宮下氏は6,900人。10倍の開きです。私も今こそ「SNS」の威力を再認識するべきだと改めて痛感させられました。
いくら県民と対話すると言っても限界があります。せいぜい4~5万人がいいところ。120万人にしっかり届けるにはこの「SNS」が最も適しているのです。
さて、ここまで知事選挙の勝敗を分けたものをイメージ戦略、マーケティングの視点から捉えてきましたが、いかがでしたか?この手法は何も政治の世界だけのものではなく組織や家庭、社会全般に活かせることです。私自身も意識して取り組みたいと考えています。
ちなみに最後に一言。この県知事選は「広域戦」です。小さな単位の市議会議員選挙は「狭域戦」同じ戦法は通用しない可能性があります。村町の選挙にはどぶ板選挙がもっとも似合っているのかもしれません。